カフェの常連 大きなお尻 夫婦の笑い声
けんかの声 めがね主人の咳払い
埃っぽい古道具屋 老婦人のお話 猫の尻尾
現れた男の涙 揺れる船の底 波の音
ピアノのワルツ 大広間の音楽 絹のドレス
男の眼差し ショーウィンドゥの前行き交う人々
木屑の匂い 力強い掌 しわがれた声
「ニーナ」
次の日娘が目を覚ますと
椅子は足が壊れて窓辺に転がっていた
夫婦は娘の髪を撫でた
「もうお疲れ様と言ってあげよう」
その椅子を作ったのは椅子職人の爺さん
曲がった腰慣れた手つき鋭い目
出来上がった椅子があんまり美しかったので
死んだ妻の名前をこっそり入れたのさ