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怪談新耳袋 第十九話 幽霊トンネル

第十九話 幽霊トンネル

  Iさんの通う大学では、お盆になると、同じ田舎出身の学生数人でワゴン車をレンタルして、帰省するというのが恒例だった。
  Iさんが一年の時、この帰省に初参加した。
  夜中十二時頃に出発すれば、朝の八時には着くのだという。
  運転をしていたのが四年のKさんで、助手席に三年のFさん、Iさんは後部座席。
  全部で男女六人が乗り込んだ。
  夜中、十二時を少し過ぎて出発したが、Kさんが「このまま高速に乗るのもおもしろくねぇな。ちょっと寄り道していくか」と言う。
  真夏の夜中のこと、ちょうど車の中は怖い話で盛り上がっていたので、誰かが「じゃあ、あの幽霊トンネルに行ってみようぜ」と言い出した。
  「よっしゃ、ちょっと遠回りだけと、行ってみっか」とKさんがハンドルを切った。
  トンネルまで二時間はかかる。
  そのうち怪談のネタも尽きて、みなウトウトとし始めた。
  起きているのはKさんとFさん、それに一年の身分から眠気を必死にこらえていたIさんの三人だけになった。
  「おい、あれだよ、あれ」
  前方を見るとトンネルがある。
  ああ、あれが幽霊トンネルか、とIさんが思っていると、車はそのままトンネルに入った。
  トンネルの壁に風を切る音とエンジン音が反響する。
  その時だ。
  「あっ!」という声が前からあがった。
  助手席にいたFさんが血相変えて、「おい、起きろ!起きろ!」とみんなを起こした。
  「どうしたんです?着いたんですか?」と後部座席の女の子たちも起き出した。
  「これこれこれ!」と取り乱したKさんが、運転席の足元を指している。
  助手席のFさんは声も出なくなって、ただ、Kさんの足元を見ている。
  「どうしたの?」と運転席の後ろにいた女の子が、その足元を覗きこんだ。
  悲鳴があがった。
  しかも、どんどんと車のスピードが増している。
  と、ハッとしたFさんがなんとかサイドブレーキを引き、もうひとりの先輩が運転席に割り入った。急停車した。
  その途端、「わあーっ」とみんなが、あわてて車から転がり落ちるように飛び出した。
  実は、一番後部の座席にいたIさんは、大騒ぎしている先輩たちを見て、何が起こっているのかわからなかった。
  ただ皆があわてて車から降りるので、訳が分からず一緒になって車から出た。
  「何があったんですか?」と聞くと、「車だよ!」と狼狽した先輩が車の運転席を指さす。
  恐る恐る車に近づいた。
  中でKさんは、ハンドルを握ったまま放心状態にあった。
  Fさんたちが、Kさんの頬を数回叩いて放心状態を解いた。
  その時、はじめてIさんは運転席で起こったことを聞かされたのである。
  運転席の床の下から二体の真っ白い手が現れて、一体の手がアクセルを踏んでいるKさんの足首を、くっと引き込んで、ブレーキを踏もうとするKさんの足をもう一体の手が持ち上げて、ブレーキを踏めないようにしていた。
  あわてて、Fさんがサイドブレーキを引き、もうひとりの先輩が横から足を入れてブレーキを踏み込んだ......。
  しばらくしてやっとKさんは落ち着いたが、蒼白の顔が冷めやらずに「まだ足が痛いよ」と言ってジーンズをめくって足を見た。
  足首には、その手の跡が赤い痣となって付いていた。


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